合唱のハーモニーヨーガ
私は子供の頃、音楽家になるのが夢でした。
クラスの皆が言ってた「音楽教室の顔が放課後になると動く」って。
音楽教室の後ろの壁には、歴代の音楽家の絵画が、ズラ〜っと貼られていたのです。
皆が不気味がる中、私は黙っていました。
放課後、誰もいない音楽教室にそっと入るのが好きでした。
あの独特の匂い。
ズラ〜っと並べてあるオルガン。
ステージの様に、床に段差がある造りの教室。
グランドピアノの鍵盤の匂い。
もしそれが本当なら、あなた達の目が動いてくれてもかまわない。
だって私は、あなた達と友達になりたいんだもん。
あんなに美しい音楽を創造する人と友達になれたら。
子供の私は、そんな想像ばかりしていました。
私は、教室の前の方から、ズラ〜っと並んだ音楽家の顔を、目が動く一瞬の隙も見逃すまいと凝視していた、妙な小学生でした。
そんな一人遊びを、今、暴露しています。
美しい音楽は、神業だと思います。
だから、音楽に心を救われた人は、少なくないと思います。
なぜなら、私もその一人だったから。
小学生の頃は、合唱部でした。
嫌いなあの子も、意地悪なあの人も、皆んな一緒になって歌うとハーモニーになる。
あの一体感に、私は何度もトリハダを立てて感動していました。
人は心に感動があれば、辛いことがあっても生きていける。
子供の私には、今のようにあの心境を表現できなかったけど、子供心に体得したのかもしれません。
音楽を通じて、歌うことで、私は私の中の力を感じることができたから。
合唱は、ヨーガだと思います。
ポーズだけが、ヨーガの体験ではない。
合唱は、ユニオンを体験できるツールです。
心と心をつなぎとめられる。
ポーズを一人でやっているより、強力なヨーガになるでしょう。
そして、老若男女、国境をも越えて、人類を一つにする力があると思います。
合唱はヨーガ。
コーラスのヨガ。
そう、歌はあの日の私も救ってくれた。
「先生、死ぬのが怖いよ」
そう呟いたた生徒さんの手を握って、ベッドの間をカーテンで区切られた小さな部屋で、隣の方に聞こえないように歌を歌ったっけ。
あの夏から、今夏で3年になるでしょうか。
その歌は、翼をくださいでした。